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世界遺産 伊勢路フォーラム   2005年7月31日
●●プログラム●●
パネリスト紹介ゲストトーク(女優 野村 真美)|ディスカッション|感想

ディスカッションの様子
 ディスカッションの様子。左から、稲葉さん、田中さん、花尻さん、速水さん、野呂さん、野村さん。約2時間に及ぶディスカッションでしたが、それぞれの立場から真剣な意見交換が行われました。

  ディスカッション(発言内容をページ作成者がメモしてまとめたものです。)
(稲葉さん)
 「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産登録されて1年が経ちました。単なる石畳や峠道は他にもたくさんありますが、熊野古道はどこが違うのか、そしてまた、道が文化遺産とはどういうことなのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。まずは順番に、熊野古道との関わりについてお話をお願いします。

(田中さん)
 実は私は吉野・大峯の代表であって、熊野古道についてはよく知りません。
 熊野古道も含めて世界遺産になったということで、観光面での注目度が高いのですが、それだけで終わってしまっているのではないかと思います。観光以上に大切なものがあるはずで、三重県の取り組みはそれに一番近いと思い、3月の紀伊長島町でのシンポジウムに続いて2回目の参加となりました。

(花尻さん)
 熊野古道との関わりは、熊野市教育委員会で文化財担当と言われたところから始まりました。当時、和歌山県が中辺路を国史跡にするためにかなりの整備をするという話を聞き、熊野にもある熊野街道を何とかしようということになりました。熊野街道を守るための集まりを作ったのですが、当時は誰も賛同してくれる人がいませんでした。それでも道の草刈や整備などを続けて、年に1回歩く集まりを作り、活動を続けてきました。
 そんな取り組みを始めて25年になりますが、地域の人みんなの取り組みの成果が、今日のこの舞台にあるということで、大変ありがたいことだと思っています。

(速水さん)
 速水林業の経営者としては、自分の持っている山が2箇所、始神峠と馬越峠が、熊野古道の山になっています。子供の頃の遠足で歩いたりしていたので、昔から知っている道です。また、私は森林組合の長という立場でもあります。世界遺産になったということで、これまで以上に地域の山を大切にしていかなくてはと思っています。

(野呂さん)
 若いときから東紀州へは何度も行っていますが、東紀州地域は三重県のイメージを代表する土地という印象を持っています。海、山、神々の道ということで、熊野古道はその代表。地元の皆さんが地域資源の再評価に取り組んできたことが、世界遺産登録につながったもので、地域住民による地域づくりの代表事例と言えるものです。こういった取り組みが、県内、全国へ広がってもらいたいと思います。
 
(稲葉さん)
 それでは本格的なディスカッションに入る前に、まず私の方から、「紀伊山地の霊場と参詣道」の価値である「文化的景観」について簡単に説明させていただきます。
 世界遺産条約の発効は1972年。当初は、ピラミッドやローマの遺跡群など、誰にでもわかるものを登録していました。しかし始まって少ししてから専門家の中から「これで良いのか?」という声が上がってきたのです。世界遺産というからには、地球上に住んでいる人、今は63億人ですが、中にはテレビも何もない遊牧民も含まれます。そういった人々にとっても、文化として代表されるようなものでなくてはならないという認識が生まれました。そういったものは、ピラミッドなど各文明を象徴するようなものだけではないはずだと。
 そこで、文化と自然という2つの側面から世界遺産を登録してきました。中でも文化遺産は、地球上で生きている63億人の文化を代表するものとして、自然と人間のつながりを示すものを、文化的景観として守っていこうということなんです。道というのは、まさに人間と自然のつながりの第一歩であると言えると思います。
 それでは、文化的景観についてみなさんのご意見を。

(田中さん)
 奈良県で、「吉野大峯を世界遺産に」と言い出したのは、私が最初です。吉野大峯に残る修験道、明治以降に衰退してきた修験道を復活させようとしたのです。修験道という人々の営みは、まさに文化的景観だと言えるでしょう。
 また私は、世界遺産登録の活動をする中で、登録されるだけでは意味がなくて、なった後にどう活かすかが大切だとわかってきました。そして、活動をする中で気づいたことがあるのですが、その点はまた後ほど。

(花尻さん)
 去年の7月1日、世界遺産登録が決まった日ですが、その日は熊野市役所の駐車場にみんな集まってきて、大変な盛り上がりでした。決定したときに私が万歳三唱をしたのですが、そのときは涙が出そうになりました。
 登録までには、国史跡の指定やイコモスの理事の現地調査など、いろいろと厳しいこともありましたが、そんな中でも、いろんな人が関わって登録されました。今後も、多くの人に関わってもらって、保護・活用をしていきたいと思います。

(稲葉さん)
 登録についてのお話が出たところで、行政の立場からいかがでしょうか?

(野呂さん)
 この世界遺産は、3県にまたがる500ヘクタールという広大な範囲にわたる遺産で、奈良、和歌山と三県協議会を作って取り組んできました。また、平成14年度から「アクションプログラム」という、地元の人と一緒に作り上げた計画を策定しています。
 これからの課題としては、来訪者が増えても、その本質が理解されなければ、一過性のブームで終わってしまうということがあります。本質の浸透に取り組んできましたが、まだ十分ではありません。これからは、地域の人だけでなく県全体として取り組みをしていきたいと思います。

(野村さん)
 本物は、絶対に飽きられないものだと思います。今はブームになっているということですが、熊野へ行った人に聞くと「あそこはすごい、何かを感じた。野村さんならもっと感じるんじゃないか」といったことを言われます。本質を伝えていくことも大切でしょうが、ブームから入って何かしらを感じてもらう、そういうところから入ってもらってもいいのではないかと思います。
 
(稲葉さん)
 それでは、伊勢路の魅力、文化的景観というものの中身についてコメントを。まずは、文化的景観としての林業について、速水さん。

(速水さん)
 世界遺産登録の評価に、「1200年にわたって永続的かつ並はずれて良好に記録された景観」という表現があります。木材の生産地として、吉野は1500年頃から、尾鷲は1600年くらいから林業が行われていました。また、古事記にはすでに木を植えて利用するという考え方が出てくるなど、森林を管理していくというのは、日本では昔からある考え方なんです。そういった点から、文化的景観としての真正性は、適正に管理された人工林が存在していることと、そこで人々が生活をしているという点にあるのだと思っています。
 熊野古道は、林業における木材搬出など森林管理のための道でもあり、また地域を結ぶ生活道でもあったわけです。むしろ、地域でそのように使われてきた道が、信仰の道としても使われたということでしょう。だから、森林管理が適正に行われていなかったら、今のような道は残っていなかったかもしれません。

(田中さん)
 文化的景観という言葉はわかりにくいのですが、人の営みということだと思っています。
 日本の国土は7割が山、つまり自然で、それらは昔から聖なるものとして崇められてきました。一方、西洋では自然は制覇する対象として考えられてきて、そこに棲んでいるのは悪魔や魔物といった悪いものだけという発想からも分かるとおり、自然との付き合い方がすごく下手でした。しかし日本では、自然は崇めるもの大切にすべきものという、『となりのトトロ』的な信仰が存在しています。
 そんな自然観の中にあって、吉野大峯には奥駆けに代表される修行という人の営みがある。その営みがなくなれば、世界遺産としての価値はないのです。そこから考えても、吉野大峯と熊野古道 伊勢路の価値は、少し違うところにあるのではないかと思っています。

(稲葉さん)
 世界遺産は、その文化的な景観をどのように次の世代へ残していくか、地球という1つの教科書の上でどのようにそれを伝えていくかが課題です。それでは、この1年で見えてきた成果と課題について、野呂知事から。

(野呂さん)
 登録によって、古道へのツアー客は4割増加し、語り部の依頼は3倍にもなりました。これらの数字を見ても、カルチャーツーリズムという考え方が進んできているのではないかと思います。
 これからの活用を考えたときの課題としては、来訪者の増加が地域の活性化に直接的につながっていないということがあります。これに対しては、地域でより快適に時間を過ごしてもらうための交流空間の創造が、住民との協働によって実践として始まっています。また、受入体制として、標識(道標)の設置やトイレの設置といった面も進めています。そして、3県一緒に参詣道ルールを定めて普及を図っているところでもあります。
 保全という点から考えると、法令のみでは熊野古道の価値は守っていけないだろうと思います。3県の連携、地元市町村の連携、そして地域住民の連携が何より大切です。そういった点から、今日お配りした「アクションプログラム」を住民の方と一緒に作り、協働会議という場で検証・改訂して取組を進めています。また、峠を守ってくれている保存会の人たちへのサポートも必要だし、語り部への若い人たちの参加が欠かせません。そういった取組も含めて、これから、3県で保全管理計画を策定して、H18年3月にユネスコへ提出することになっています。
 それから一点、問題になっている八鬼山越えへの落書き問題については、お隣の速水さんにかなりお骨折りをいただいているので、速水さんから少し話していただければと思います。

(稲葉さん)
 保全と活用は一体となっていることが重要、という貴重なご指摘だったと思います。それでは、速水さんから。

(速水さん)
 熊野古道の文化的景観を作っている人工林ですが、最近は国産材の価格低迷によって、林業が成り立たない状況になっています。かつては50年60年というスパンで回っていたものが、回らなくなっているのです。そんな状況の中で、熊野古道へ来た人が「世界遺産なのに木を切って良いのか?」ということを言われます。これは、林業者にとってとても傷つく言葉なんです。来てくれる人に林業の意味が正しく伝わっていないことから出てくる言葉なので、もっと熊野古道と人工林について情報発信をしようと、こういった場に参加させていただいています。
 八鬼山越えの問題については、地権者の方と何度も話をさせてもらいましたが、言っていることはもっともなことが多いのです。つまり、八鬼山越えの件も同じことなんですが、林業が成り立たなくなってきた状況で、林業者の間からは、「世界遺産登録によって森林管理ができなくなってしまうのでは?」という心配が全面に出てきているのです。そういった地元の人たちの不安をどうやって解消していくのかが課題でしょう。
 道の世界遺産は世界でも2例目ということで、実は行政にも、どうやって保全・活用していけば良いのかはわかっていないのでしょう。林業をしている立場としては、積極的に森林の維持管理をしていけば良いのだと思っています。
 もう一点、熊野古道へ来る人が増えて、明らかにオーバーユースになっていて、土道の部分はかなりくぼんでいます。こういった問題に対して、どうやって守れば遺産としての真正性を守れるのかを考えて行かなくてはならないでしょう。

(稲葉さん)
 真正性という言葉が出てきましたが、花尻さん、いかがでしょう?

(花尻さん)
 熊野古道は、広大な森林と豊かな自然がなくては成立しないものです。花々、樹木といったものについては、「取らず持ち込まず」ということで「紀伊山地の参詣道ルール」にも盛り込みました。活動として、七里御浜で外来植物の駆除をここ3年ほどやっています。中には、タカサゴユリのようなきれいに咲いている植物まで駆除しなくても良いではないか、といった意見をいただくこともあります。しかし、きれいだから、かわいいからあっても良いという考え方ではいけないのです。日本古来の植物が生える風景を守っていくことが必要なのだということを、みなさんにぜひ分かっていただきたいと思います。
 また、イコモスの方と話したときに、「発展途上国の世界遺産は、ボランティアがいないからボロボロになっている」という話をお聞きしました。そして私は何も話さなかったのですが、「伊勢路はその点、ボランティアがたくさんいるんでしょうね」と言われました。馬籠宿を視察に行って印象に残っていることは、そこに住んでいる人の心は豊かだということでした。熊野古道でも、住んでいる人の心の豊かさを伝えていければと思います。
 最近、来てくれる人は団体よりも個人のグループが多くなっています。じっくり味わうことのできる小グループで来て、現地で知り合った人と一緒になって歩いているという人も多いのです。そういった人と人を結びつけるという、道が本来持っている機能もそこには生まれてきているように思います。
 最後に、関わっている人の高齢化が進んでいます。若い人にも伊勢路の良さを分かってもらう必要があります。学校の生徒に世界遺産の意味と重みを分かってもらっていくことが、ぜひとも必要だと思います。
 
(稲葉さん)
 それでは、より魅力的な伊勢路を作っていくためには、どんなことが必要でしょう?

(田中さん)
 世界遺産登録に関する活動をする中で私が気づいたのは、明治以降の日本の近代化がはたして正しかったのだろうか?ということです。近代化というのは、欧米の真似をするということであり、それはつまりキリスト教の一神教的な価値観・考え方を取り入れるということでした。そこで、欧米のモノが良くて、日本のモノが悪いという考え方になってしまったのでしょう。
 七五三でお宮参りし、彼岸に墓参りし、クリスマスも祝って、神社へ初詣に行き、結婚式は教会で挙げる。それでも日本人の多くは「自分は無宗教だ」と答えます。これは、価値観が欧米的なものに変えられてしまったからそう思うのであって、欧米の一神教的な価値観でこれを見れば「無宗教」ということになるのでしょうが、多神教的な日本の価値観からすればごく自然なことです。
 こういった多神教的な日本の価値観を心地よいものとして感じさせてくれる場所が、今の日本にはもうあまり残っていないのではないでしょうか。吉野大峯や熊野古道は、その数少ない場所のうちの1つなのです。
 例えば伊勢路について見ても、国家神道の伊勢神宮と、古来からの神を祀る熊野は、まったく別のものです。一神教的な価値観からすれば、そんな巡礼はないはずなのです。
 世界遺産登録の過程で私が気づいてきたことというのは、日本人が近代化の過程で失ってきたこうした考え方、価値観、神と仏というものが、「紀伊山地の霊場と参詣道」にはあるということ。そしてそれを取り戻していくことこそが、世界遺産登録されることの意義なのだということです。

(稲葉さん)
 大変興味深いお話でしたが、これからの伊勢路ということで速水さん、いかがでしょう?

(速水さん)
 森林管理は、人間が木を植えて育てるものです。私の山は5代にもわたってひのきを植えてきました。同じ種類の木を5回も植える、吉野、和歌山、尾鷲というのはそういうところですが、こういった森林管理は世界にも例がないのです。世界的に持続的な森林管理のあり方が課題とされている中で、この「何世代にもわたる森林管理」は、世界が目指すものなんです。そういった森林が、熊野古道の周辺にはあるのだということを分かってもらいたいですね。
 私の山の人工林には、植物が230種類ほどありますが、周囲の自然林には160種類程度です。作家 中上健治は「熊野の闇には色がある」と言ったそうですが、人が歩く1歩の下に10万もの微生物が生息している、そういう奥深くて生命力に満ち満ちた森を、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が棲みついているような奥深い森を人がつくり出していく。今も自然の森として残っているところは大事に残していくとして、そういう森を作っていくことが目指すべきところではないかと思うのです。

(野呂さん)
 本居宣長が言った「もののあはれ」、松尾芭蕉が言った「わびさび」といった日本人の価値観が、東紀州にはたくさんあると思います。
 伊勢から熊野へのつながり、歴史文化・自然・ふれあいをありのままに感じてもらうこと、これが目指すべき熊野古道ツーリズムです。そのためには、地域の魅力、文化というものを活かしていく、文化力が大切になってきます。行政が最終的に目指すのは、「自分たちのやっていることが、そこに住む人々の生き様が高まっていくことに、つながっている」ということで、常にそこを意識しなくてはなりません。そのためには、文化をすべての取組みのベースにしていく必要があるのです。
 また、地域の人たちが取り組んで、お客さんのニーズに合わせていくだけではない、新しい観光スタイルを作っていってほしいと思います。そのためにも、アクションプログラムに掲げられた3つの目標、そして古道センターについて、地元の人たちの参画を得ながら進めていきたいと思います。

(稲葉さん)
 野村さん、魅力ある旅先の条件って何でしょうね?

(野村さん)
 思うところは人それぞれだと思いますが、そこに興味のある場所やモノや食べ物があることでしょうか。伊勢路の魅力がまだ十分に伝えられていないということで、それが伝えられれば、お客さんはもっと大きな感動を得られるのではないでしょうか。

(稲葉さん)
 みなさんが話されてきたように、世界遺産が目指すのは、これまでのような消費型の観光とは違うツーリズム。そういった視点で、伊勢路が提供できるツーリズムとは何かを考えていくことが必要なのでしょう。
 それでは、最後に一言ずつお願いします。

(野村さん)
 こんなに自分の地元のことを考えて、よりよくしていこうという想いに感動しています。自分も、地元や日本のために何かをしていきたいと思いました。

(野呂さん)
 熊野古道をすごさを、改めて認識しました。地元の人たち、市町村と一緒に守り、伝えていきたいです。

(速水さん)
 東紀州は、日本とか何とか言う以前の、心の根幹となるものが存在する地域だと思います。消費してなくさないように、地域を守っていきたいと思います。

(花尻さん)
 県内でたくさん活躍する観光ボランティアガイドのみなさんも、これからがんばっていきましょう。

(田中さん)
 私も3冊の本を書いているが、最近は活字を追わず、安易なものがウケる時代になりました。しかし、本当に体を使って得られたものは、感動を与えるものです。地元の人がそれをわかった上で、それを活かしていくこと、観光面のみを追いかけるのではなく、もっと深いところを追いかけることが大切でしょう。

(稲葉さん)
 世界遺産に登録されることの意義の一つは、今日のようにいろんな立場の人が一堂に会して話す場ができるということです。世界遺産の価値を伝えていくのに、有意義なお話が聞けたと思います。ありがとうございました。
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