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 平成20年度熊野古道協働会議総会  2008年8月23日(三重県立熊野古道センター)
※ここに記載する内容は、ページ作成者が会議に出席してメモした内容に基づいているため、実際の発言内容と異なる部分があるかもしれません。文責は「くまどこ」にあります。


3 講話:吉野からみた伊勢路の取組について
  (総本山金峯山寺執行長 田中利典氏)
 私は「熊野古道」という名前のついた催しには参加しないと心に決めていたのですが、三重県さんに呼ばれてこういう催しに参加するのも8回目になりました。それはひとえに、伊勢路の取組が素晴らしいものだからです。この世界遺産は3県にまたがるものですが、他の2県、少なくとも金峯山寺のある奈良県よりはずっと素晴らしい取組をされていると思います。
 その原因は何かというと、三重県には和歌山や奈良と違って、核となる霊場がないということだと思います。世界遺産登録の際に伊勢神宮が断ったという経緯もあるのですが、核になるものがないのなら地域のみんなと一緒に取り組もうじゃないか、取り組むしかないじゃないかという方向性がおのずと出てきたのです。

 伊勢路の取組の何が素晴らしいか、まずひとつは「地域密着」ということです。語り部さん、保存会といった人たちの動きが、世界遺産登録に向けて大きな動きになりました。地域が歴史の中で育んできた遺産なのだから、地域における取組が不可欠なのです。先に述べた他の2県と比べた三重県の特徴が、そうせざるを得なかったという結果になるのですが、それが良かったのです。
 2点目は、世界遺産条約の文言を見ればわかるのですが、条約は何を書いているかというと、アクションプログラム2の18ページに書いてあるとおり、世界遺産条約とは、「世界の貴重な文化遺産及び自然遺産を人類全体の宝物として損傷、破壊等の脅威から保護し、各地域において関係機関が協力して調査・保全することの大切さをうたっている条約です。」つまり、世界遺産の目的は、観光とも地域活性化とも書いてないのです。保存のための制度であるというのが第一義です。
 世界遺産登録されて、奈良と和歌山の2県は外を見る、つまり観光や地域振興に重点を置いたのです。しかし、三重県は地域から取組を始めることで、保存という本来の目的に沿って取組を進めてきたのです。
 日本にも世界遺産がいくつもありますが、例えば屋久島を例に出せば、観光や活性化に重点を置いた結果、1000年も生きるはずのヤクスギが、100年くらいでバタバタ倒れるようになってしまった。つまり、保存ではなく観光や地域活性化に重点を置いた結果、世界遺産に認められた宝物が壊れていくのです。宝物が壊れてしまえば、人が来なくなって観光も地域活性化もできなくなります。観光や活性化を前面に出した結果として人が来なくなっていくというのが、日本の世界遺産の現状いなっているのです。三重県の取組はそうではなく、保存がメインまたは重点項目になっていた。地域が培ってきたものこそが宝物です。その保存に重点を置いて取り組んでいくことがこれからも大切だと思います。
 3点目は少し話が大きくなりますが、伊勢路の取組は、近代以降に日本が失ってきたものを取り戻すきっかけになり得るのではないかということです。
 日本は元々、中央集権に向かない国で、明治に入るまでは各地域に藩があったりして地域でいろんなことをやっていました。明治になって中央集権的な国家の仕組みが作られたけれど、今でも日本人は、自分の人権・自由を最終的に担保してくれるのが国だという意識をほとんど持っていません。元々が地域に根付いていると思っているので、そういう意識を持っていないのです。
 そういう、自分たちが帰属できる地域をつくるということは非常に重要ですが、今では田舎にしか地域が残っていません。あるいは、田舎にはまだその地域を残せる可能性があると思います。伊勢路における取組を進める中で、そういう日本人が失ったものを取り戻すようになればいいと思っています。
 もう少し別の見方をすると、日本の近代化というのは西洋の近代化と違って、西洋のキリスト教文化の上澄みを持ってきて当てはめたもので、日本人の持っていたものを失ってしまった過程でもあるのです。その結果、最近は「日本」という題のついた書籍が売れるそうで、日本人が「日本探し」をしているのです。その探しているものが、田舎にはまだ残っているのではないかと思うのです。個人が帰属する最小の集団は家族です。家族のあり方は戦後の民法改正で変わってしまいました。民法改正は簡単ではありませんが、地域の中で自分たちが帰属できる地域・集団を作っていくということはできると思いますし、そうすることが大切ではないでしょうか。

 この世界遺産は、世界中の数多くの世界遺産の1つなのですが、その中で最も価値のあるものだと言えるかもしれません。一方で、最もわかりにくいものでもあるでしょうが。
Q1 明治に入って廃仏毀釈の中で修験道がもっとも激しく弾圧されたということですが、それについてもう少し詳しくお話をお願いします。
A1 修験道は、神道を母体に仏教の中で成り立っている、まさに神仏習合を土台にしたものなので、廃仏毀釈は受け入れられないものでした。当時の修験道は約17万人という大きな勢力だったために、禁止されつぶされました。数が少ないものなら、つぶす必要もなかったでしょうが、一神教的な価値観をベースにする近代化にあっては、それと相容れない一大勢力だった修験道は邪魔な思想だったということです。「紀伊山地の霊場と参詣道」は、異なる霊場が半島の中で共存しているという点がすごい。そしてそれを結んでいるのは、修験道的な道であるということが重要です。

Q2 禁止令が出された後も修験道が続いてきた要因はなんでしょうか。
A2 中断もあるし盛衰はいろいろありますが、神社ではなく寺として残ったという点が大きいと思います。神社には「行」がないけれど、寺には「行」がありますから。






4 熊野古道アクションプログラムの見直しについて ―世界遺産登録5周年を節目として―
(事務局)昨年の会議で見直しが議論になった経緯をまず振り返ってみたいと思います。

(森林環境分野世話人 速水氏)多様なとらえ方で、みなさんが伊勢路に取り組まれてきました。行政は民の動きが見えにくいので、民の意見をもう一度きちんと聞くべきだろう、その中で、行政自身がやるのではなく行政が活動をサポートしていかないと、行政と地域が離れてしまうことになる。だから、行政は初心に立ち戻って、意見を聞いてアクションプログラムの見直すべきところを見直してはどうか、そういう流れだったと思います。アクションプログラムというのは、活動の方針なので一度決まったら終わりではなく、いつまでも死なずに続いていくものですから。

(事務局)アクションプログラムの草案が出来上がったときに、携わっていた地元の方がおっしゃっていた「ああ、わしらの計画が出来たなあ」という言葉が、今でも忘れられません。田中利典さんがほめてくださった、まさにその通りの取組だったと思っていますし、今では気持ちの良い集まりになっていると思います。
 伊勢路の取組は、いろんなところで注目を集めています。それは、毎年見直しながらやっていくという仕組み自体が評価されているのでしょう。保全・保護・活用のやり方が面白いということで、今日はイコモスの日本のトップである前野先生も来てくださいます。
以下、見直し案の説明が、配布資料に基づいて行われました。これは、アンケート調査と県外の関係者へのヒアリング調査を実施した結果から事務局がまとめたものです。アクションプログラム2への追記として、「3つの輪づくり」が提案されました。

配布資料1:熊野古道アクションプログラム2 追記編(案)
配布資料2:熊野古道アクションプログラム2 追記編 別冊・資料

Q1 県からもっと金と人を出してもらいたい。年間100億円、専属スタッフ50人くらい。峠の保存はボランティアに頼っているのが現状で、これからどうやっていくのか大きな問題だ。
A1・事務局 ご意見はしっかり聞かせていただきました。

Q2 「熊野古道だけが世界遺産」という誤解があるような気がしてならない。「紀伊山地の霊場と・・・」という頭にあるところが抜けている。名称として必ずそれを使うことが必要だし、3県で取り扱いを決めるべき。
A2・田中氏 私は当初、伊勢路の価値は何なんだろうと考えました。巡礼の道としては、奥駈などと違ってすでに死んだ道。しかし、伊勢と熊野という全く異なる霊場をつなぐのが伊勢路だという点を考えると、まさに日本的な信仰の在り様が残っている道なのではないかと思うようになりました。
もう1つの道の世界遺産であるサンティアゴ・デ・コンポステーラも、一度は廃れていたが、今は復活しています。伊勢路の取組によっては、巡礼の道として再生させることが出来るのかもしれません。伊勢路や熊野古道について、狭いとらえ方をしないという考え方は重要です。






5 平成21年度重点テーマについて
(代表世話人 花尻氏)これまで3年間取り組んできた「伊勢路を結ぶ・つなぐ」は、一層取り組んでいただきたいテーマですが、その他に何か良い案はないでしょうか。

(会場から)保全・保存は公共事業でやるべきだと思いますので、ぜひ県なりで予算化をお願いしたいと思います。
(会場から)熊野古道=石畳だと思っている人がほとんどです。熊野古道で重要なのは石畳ではなく精神性だということを、上手く表現していかなくてはならないと思います。
(代表世話人 花尻氏)伊勢路を結ぶというだけでなく、精神性の大切さをこれに加えていくことは重要なことです。伊勢と熊野を結ぶというテーマにしてはどうでしょうか。
(森林環境分野世話人 速水氏)保全・保存は公共事業という話については、これからの時代、まさにストックの活用・保存が重要になってきます。その典型が文化財ではないのかと思っています。公共がそこへどう関わっていくのか、地域の参加をどう組み込めるかというのは、大切な視点だと思います。
(森林環境分野世話人 速水氏)伊勢路を結ぶ、伊勢と熊野を結ぶというだけでなく、なぜ結び・つなぐのかというポイントが大切ではないでしょうか。その点をきちんと加えていかないと、この世界遺産において重要な精神性といったものが忘れられていくのではないでしょうか。
(田中氏)伊勢から速玉・那智・本宮・高野・大阪方面をまわって、最後に延暦寺へという西国巡礼の姿を復活させようという動きが、伊勢神宮と名の通った大きな寺院が加わった中で始まっています。伊勢路を結ぶという動きに対して、良い効果があるのではないでしょうか。
(会場から)熊野古道の精神性という点についてですが、みなさんの家も同じだと思いますが、神棚と仏壇が1つの家の中にあります。これが一番分かりやすい神仏習合であり、日本人の精神性ではないでしょうか。

(以下は、前野氏による講演後、代表世話人の花尻氏から追加で提案された内容です。)

(代表世話人 花尻氏)伊勢と熊野をつなぐという話をしましたが、先ほどの意見からも分かるように、我々の世界遺産においては、精神性が重要です。それはアクションプログラム2の3つの目標のひとつ「価値に気づく」にも書いてあるとおりです。21年度は、この「価値に気づく」ということを重点テーマにしてはどうでしょうか。もちろん、「伊勢路を結ぶ」は引き続き取り組んでいきましょう。(会場から拍手。)
 
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